【管理栄養士監修】夏でも減塩は必要?
熱中症と塩分補給の正しい知識

はじめに
暑い夏になると、「熱中症対策には塩分補給が必要」という情報がメディアやネット上で多く見られます。その一方で、「減塩は健康のために必要」とも言われています。
では、夏の暑い時期でも減塩は必要なのでしょうか?結論から言うと、夏でも減塩は必要です!
この記事では、科学的根拠に基づき、夏における塩分の必要性と減塩の正しい考え方について、専門家の見解や統計データを交えて分かりやすく解説します。
特に高齢の方にも理解しやすいよう、シンプルで丁寧な表現でまとめています。
1.日本人の塩分摂取量とWHOの基準
日本人の食事は塩分が多いとよく言われますが、実際にはどうでしょうか?
日本人の1日あたりの塩分摂取量は以下の通りです。
対して、世界保健機関(WHO)が推奨する1日あたりの塩分摂取量は、
つまり、日本人は推奨値の2倍以上の塩分を日常的に摂取しているのです。
5gは、だいたいラーメン1杯を汁まで飲んだ程度の塩分量です。
ラーメン一杯食べるだけで実は、1日の塩分量を超えてしまいます。
2. 汗に含まれる塩分の量はどれくらい?
人が汗をかくと、そこに含まれる塩分(ナトリウム)が体外に排出されます。
汗の塩分濃度は個人差があるものの、平均で約0.3〜0.4%*とされています例えば、夏の暑い日に1時間歩いて約500mlの汗をかいたと仮定すると、

500ml × 0.4% = 2gの塩分
つまり、1時間で失われる塩分は約2g程度です。
これは平均的な日本人の食事1食分以下の塩分に相当する程度です。
なお、1日で仮に1Lの汗をかいても4g程度の塩分損失にすぎず、これは食事1.5食分に含まれる塩分以下です。1Lの汗は、サウナに長時間入るか、夏場に激しい運動をするなどした場合以外、通常の生活をする上ではかかない汗の量です。
出典:全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/tottori/20140617syaho/30042001/30092004.pdf
3. 夏でも減塩が必要な理由(専門家の見解)
東京大学の佐々木敏 教授(公衆栄養学)は次のように述べています。
「1ℓの汗をかいても必要な塩分は約1.5g。通常の食事を摂っていれば十分補える。」
(出典:佐々木敏『栄養データはこう読む!』女子栄養大学出版部, 2010年)
2章での汗から出る塩分値の計算とは少しずれますが、佐々木先生の見解では、1ℓの汗で必要な塩分は、さらに少なく、1.5gほどと考えられているようで、夏でも減塩が必要だと述べられています。
さらに、日本高血圧学会の「減塩委員会報告」や、国立循環器病研究センターの減塩推進資料でも、「夏でも減塩を推奨」しており、高血圧・心疾患の予防のために継続的な減塩が重要であると明言しています。
また夏の熱中症対策で重要なのは、水分補給である事も記載されています。
4. 塩分補給が必要なケースとは? 実際に熱中症になった場合は?
ただし、例外的に大量に汗をかいた場合は、塩分の補給が必要になることがあります。例えば:
- 炎天下での長時間の屋外作業
- 長時間の運動(マラソン、部活、スポーツイベントなど)
- サウナや岩盤浴などで大量の発汗があるとき
このような場合は、塩飴やスポーツドリンク、経口補水液などで塩分と水分を同時に補給することが望ましいです。一方で、私たちは普段の夏場の生活では、クーラーが効いた部屋ですごし、買い物などで外に出ても大量に汗をかく事は少ないでしょう。

また、実際に熱中症の初期症状が見られた場合には、水分だけでは無く、塩分の摂取も重要になります。その際はスポーツ飲料、経口補水液を飲みましょう。
ただし、カフェイン入りの飲み物は利尿作用があるため避けましょう。
5. 熱中症対策で本当に必要なこと
熱中症を予防するには、以下のポイントが重要です:
- 水分をこまめに補給すること(1.2L/日以上を目安に )*
- 3食きちんと食事を摂ること(自然な塩分補給になります)
- 気温や湿度に注意し、適度にエアコンを使うこと
食事をしっかり摂る事は水分補給の点からも重要です。
水分は飲み物からだけ摂っていると思われがちですが、実際には、飲み物と食事の半々から摂取されています。
食事を抜くと水分の摂取も減るため、熱中症になりやすくなります。
また、「塩を多く摂れば熱中症を防げる」というのは誤解です。水分と適切な食事による塩分補給が基本です。
出典:日本高血圧学会
出典: 佐々木敏『栄養データはこう読む!』女子栄養大学出版部, 2010年
6. よくある誤解Q&A
- Q1. 「熱中症対策に塩タブレットを毎日食べるべき?」
- A. 通常の生活では不要です。軽い発汗では普段の食事で十分な塩分が補給できます。
夏でも長時間の激しい運動などで大量に汗をかかない限りは、適切な減塩を続けましょう。 - Q2. 「減塩すると熱中症になりやすくなるのでは?」
- A. いいえ。むしろ高血圧などを防ぎ、全身の健康を保つうえで減塩は有効です。
脱水症状が問題であり、塩分不足は稀です。こまめな水分補給を心がけましょう。 - Q3. 「高齢者は塩を積極的に摂ったほうがいい?」
- A. いいえ。高齢者こそ減塩が大切です。
腎機能や血圧調整力が低下しやすいため、医師と相談のうえ、減塩生活を続けましょう。
(出典:日本高血圧学会)
7. 減塩のコツとおすすめの食品
減塩を続けるには工夫が必要です。次のような方法を取り入れてみましょう。
- だしや香辛料、レモンなどで風味を補う
- 減塩の調味料やレトルト食品を活用する
- 外食時はスープを残す、ソースは別添にする
→ソースは直接かけず、皿に出し、つけて食べる - 減塩レシピを積極的に活用しましょう
8. 結論:夏でも適切な減塩を
繰り返しになりますが、夏でも減塩は必要です。
日本人は普段から塩分を摂りすぎており、特別に多量の汗をかかない限り、追加で塩分を補給する必要はありません。
むしろ、高血圧や心疾患、腎臓病を予防するためには、継続的な減塩が重要です。
ポイントまとめ(表)
| 状況 | 減塩の必要性 | 塩分補給の必要性 |
|---|---|---|
| 普段の生活(室内・軽い運動) | 必要 | 不要(通常の食事でOK) |
| 長時間の運動・作業(大量発汗) | 一時的に不要 | 必要(適量を水分と一緒に) |
| 熱中症時 | -- | 必要(経口補水液など) |
(出典:日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」/日本高血圧学会/佐々木敏『栄養データはこう読む!』女子栄養大学出版部, 2010年)
9. 高齢者の方へのアドバイス
年齢を重ねると、のどの渇きを感じにくくなったり、血圧や腎臓のトラブルが出やすくなります。だからこそ、
- 毎日こまめに水分をとること
- 普段から塩分を控えた減塩の食生活にすること
- 暑さを我慢せず、エアコンを活用すること
- 無塩・減塩の食品を賢く選ぶこと
- 3食の食事を摂ること。
がとても大切です。
減塩は、体に負担をかけない健康習慣のひとつ。
夏こそ減塩を意識して、無理なく熱中症を予防しましょう!
監修者:管理栄養士 河見夏美
管理栄養士 河見夏美 プロフィール
管理栄養士:河見 夏美
【資格】
・管理栄養士 (名簿登録番号 第217912号)
・腎臓病療養指導士 (認定登録番号 第01771号)
【ご経歴】
2017年 管理栄養士取得・病院で勤務
2021年 腎臓病療養指導士 取得
2023年 フリーランス管理栄養士
2017年に管理栄養士免許を取得後、6年間にわたり病院にて糖尿病や腎臓病を中心とした栄養指導・入院患者の食事管理に従事。
2021年には「腎臓病療養指導士」を取得し、腎疾患を持つ方の食生活改善に専門的に取り組む。
2023年よりフリーランス管理栄養士として独立。
現在は、腎臓病患者さん向けの栄養相談・コラム監修・レシピ制作などを通じて、「食事で健康を守る」サポートを行っている。
特に腎臓病・糖尿病などの分野で、累計4500件以上の栄養相談実績をもつ。
【管理栄養士からの監修コメント】
「夏は塩分を摂った方がいいのでしょうか?」とよくご質問をいただきます。
実は日常生活での発汗によって失われる塩分量はごくわずかです。普段の食事で十分に補うことができます。むしろ、塩分の摂りすぎは高血圧や腎臓病の悪化につながる恐れがあります。
私もこれまで多くの患者さんと向き合ってきましたが、「夏だから」と塩分を意識的に増やしたことで、血圧が上昇してしまったケースもありました。
大切なのは「塩分を足すこと」ではなく「こまめな水分補給」です。特に高齢の方は、のどの渇きを感じにくくなるため、1日あたり1.2L以上を目安に、少量ずつこまめに水分をとることが、熱中症を防ぐ基盤となります。
夏こそ、食事からしっかりと栄養と水分を摂りながら、体にやさしい減塩生活を無理なく続けていきましょう。